東京地方裁判所 昭和29年(行モ)14号 決定
右当事者間の昭和二十九年(行モ)第一四号行政処分執行停止申立事件について申立代理人は北海道知事は漁業法第十一条第四項に基き北海道斜里郡小清村地先の定置漁場計画を定めて昭和二十七年八月九日附で公示し漁業の免許申請の受理を開始したので、申立人等のほか奥谷悠一、今井武雄、山本清一が免許申請をなしたところ、北海道知事は申立人等に対し、同年八月二十五日附で小清さけ定第三十五号定置漁業免許(以下単に本件漁業免許と略称する)をなした。然るに前記競願者の奥谷悠一は本件漁業の免許を拒否されたので同年十月二十五日被申立人に訴願をなしたところ被申立人は昭和二十九年六月九日附二八水第三四〇六号裁決(訴願人奥谷悠一)(以下本件裁決と略称する)をもつて北海道知事の申立人等に対してなした前記漁業免許処分を取消したが、右裁決は漁業の免許処分と漁場計画の設定処分とを混同し漁場計画の設定の適否をもつて漁業免許の判断の基礎としたものであるから違法である。仮りに漁場計画設定の適否をもつて漁業免許の許否の判断の基礎となし得るという前提をとるとしても北海道知事の漁場計画設定処分が違法として取消されぬ限り同処分は有効に存在するのであるからその違法を理由として漁業免許処分を取消すことは違法であるというべく、申立人等は被申立人を被告として本件裁決の取消を訴求している(東京地方裁判所昭和二十九年(行)第六九号事件)のであるが右訴訟に勝訴しても、その判決までの間本件裁決がそのまま執行(広義の)されるとすれば既に昭和二十九年の操業の準備に入り漁夫との契約も終り漁網資材等も購入し漁船を下架しもつて操業準備の約九割を終つて漁期を待つているのであるから、申立人等はこれが準備に要した漁網、漁具、資材購入等百五十二万八千六百五十六円の損害を蒙るのみならず、本件漁業に従事する三十数名の漁夫及びこれが家族百数十名は収入の道を失い申立人等は償うべからざる損害を蒙ることになるのでその損害を避けるため被申立人に対して本件裁決の執行(広義)の停止を命ぜられんことを求める旨申立てた。
被申立人の意見の要旨は本件裁決により申立人等の漁業免許が取消された後において本件裁決を違法として取消す判決が確定した場合でも申立人等がこれによつて蒙る損害は金銭をもつて償うことができるものというべきである。又申立人等は本件漁業権のほか網さけ第十五号、同第十六号及び同第十七号定置漁業権の三ケ統を網走東部海区内において共有しているほか、申立人北進漁業株式会社は網走中部海区の常呂町地先において常呂漁業協同組合及び若井善蔵と共にさけ定置漁業権三ケ統の免許を受けている(漁業権を共有)から本件漁業免許の取消によつて多少収入の減少を来すとしてもその蒙る損害を避けるため緊急の必要があるとは認められないというにある。
よつて考えるに、本件裁決を違法として取消す判決が確定した場合には申立人等が本件漁業権を原状に復することは可能であり、とくに申立人等の受ける損害について償うことができないと思われるような事情について何等申立人等は開陳しないのであるから本件裁決(漁業免許の取消)により申立人等が償うことができない損失を受けるものということはできないので申立人等の申立は理由がないものといわなければならない。よつて次のとおり決定する。
(裁判官 毛利野富治郎 桑原正憲 鈴木重信)